ホールスタッフ、キッチンスタッフ、レジ係、案内係、清掃係、洗い場、宅配(出前)スタッフ、洋菓子職人、板前、すし職人、店長・マネジャー、SV(スーパーバイザー)、食品衛生責任者、製菓衛生士、調理師、ふぐ調理師、ソムリエ…などなど。
ひとくくりに飲食といっても、さまざまな職種があります。
体力のある大手企業であれば仕事を分業することも可能ですが、小規模の飲食店の場合だとそうはいきません。場合によってはオーナー1人でお店をまわしているところも少なくないはずです。
今回とりあげる採用テーマは「小さな飲食店」について。新規出店し、軌道に乗りはじめたころに考えはじめるスタッフ採用ですが、もちろん簡単ではありません。どのようなスタイルで経営をしていくかも同時に検討しなければいけないので、将来のビジョンと合わせて参考にしてみてください。
Contents
飲食(外食)産業の業界動向
2020年の新型コロナウイルスによって、飲食店の「あり方」が見直されつつありますが、外食という文化はやはり日常の延長線上にあります。
消費者ニーズの多様化・高度化に伴い、ある場面・時間帯・地域・利用目的に合わせて飲食店を選択するようになりました。しかも、その選択基準はますます細分化されてきており「料理がおいしい」だけでは、お客様に選ばれ続けることが難しくなってきています。
業界全体では大手企業のM&A(買収合併)が加速。仕入れの一本化や出店立地の確保などでコストメリット創出を図る企業が増えているのが特徴。保育園に預けることのできない待機児童の多さが問題になっていますが、その背景には働く女性の増加も一因としてあるでしょう。
女性の社会進出によって中食産業(持ち帰り弁当・総菜)の伸びが顕著でしたが、先の新型コロナウイルスによって、テイクアウト、配達、ウーバーイーツといった新たな外食の価値観が加速しつつあります。
小さな飲食店が直面する課題
なるべく固定費の負担を少なくするために、フルタイムの正社員採用は必要最低限におさえ、アルバイト・パートスタッフを採用して戦力化するのがやはり正攻法。しかし「それ」が難しくなってきているのが現状です。
なぜ、人を採用すると問題が起こるのか
新しい人が入れば入るほど、問題は起こるもの。なぜなら問題というのは「人」が起こすものだからです。事業を行う限りこの定めからは逃れられません。
1人で商売を行うこともできますが、「人を雇うとトラブルは必ず起こる」と割り切り問題を事前に予想し対策を立てることで事業を大きくすることができます。
[課題1]お金を払って求人を出しても応募が来ない
とくに小さなお店の場合は条件面では大手には勝てません。アピールする部分を工夫しないことにはスタッフの採用は難しいでしょう。しかし、アピールポイントは後付けで作ってしまうこともできますよね?
たとえば、以下のようなものはこれから検討することもできるはずです。
- とびきりおいしいまかないを1日2食まで食べられる(しかも無料)
- フランス、ブルゴーニュ地方への視察旅行についていける
- メニュー開発に参加自由!採用されれば賞金が出ます
- 店休日にお店を好きに使っていいよ!週1日オーナー体験ができるお店
- 求むSNS運用者!結果が出ればお店に出なくてOKです
[課題2]せっかく採用できたのにすぐに辞める
10万円以上かけてやっと大学生を1人採用することができた。しかし連絡もなしに突然来なくなった。採用からたった10日しか経っていないというのに…。
昨今の若い人たちはとてもフットワークが軽く、「ここはないな」だったり「聞いていた話と違う」というようなことがあればすぐに環境を変えるための行動を起こすのが早い傾向にあります。
当たり前ですが、ウソの情報を伝えないのはもちろん間違って伝わっていないかをしっかり確認すること、内部の環境を整えることを意識してみてください。
- 入社から3週間程度までのスケジュールを見直してみる
- 不安解消のため専任の育成担当を1人つけてみる
- 既存の従業員にやさしく対応するよう事前に伝える
- 作業マニュアルを作成して、迷わないようにしてあげる
[課題3]新人と既存スタッフが仲良くやれない
先輩の指導方法が悪いのか、新人の態度がよくないのか仕事中に言い合いの喧嘩をしだす始末。店内の雰囲気もどんどん悪くなり、片方から「やめます」と伝えられた。
裁量権を与えることはモチベーションの観点からも大切ですが、どのようなスタッフにもアラート(報告・連絡・相談)をあげてもらうようにしましょう。
- 雰囲気が悪くなっていることを放置しない(話を聞く)
- 既存スタッフとの相性を加味した面接時の質問を考る
- あえて敵役になることでスタッフ同士の結束を固める
- コミュニケーションをとる機会を定期的にとる
【採用失敗】繁華街にある1人でやっているラーメン屋さんの話
- 席数20(カウンター席なし)
- 11:00~14:00(ランチ)、17:00~20:00(ディナー)で営業
- ラーメン激戦区の地域において、オープン初日から行列ができる人気店
- オーナーは有名店で数年間修業を積んだ生粋のラーメン職人
オープニングスタッフとして、昼のパートさん1名、夜の学生バイトを1名採用しスタートは順調でした。しかし、1ヶ月もしないうちに夜の学生バイトが退職。急にこなくなり、何度電話をかけても出ません。昼のパートスタッフも夜は出られないため、仕方なく夜はオーナー1人で営業をすることになりました。
券売機を導入しているものの、1人でラーメンをつくり、ホールまでもっていくのはさすがに大変。居抜きで借りた物件でしたが、カウンター席はなく、キッチンからホールまでラーメンをもっていかなくてはいけません。注文が重なるとラーメンがでてくるまで30分以上待つこともざら。
夜の客数はどんどん減っていきます。
- 忙しい→回らない→疲れる→余裕がなくなる
- 待ち時間が長い→客足が減る→売上減→余裕がなくなる
夜のワンオペが連日重なると、負の連鎖がはじまり、オーナーはパートさんにもつらく当たってしまいます。理不尽に怒鳴られるオーナーに愛想を尽かし、昼のパートさんも辞めてしまいました。
夜の営業と同じようにさらなる負の連鎖がはじまります。
お客さんへの対応もどんどん雑になり、客足は日に日に遠ざかっていきます。とてもおいしいラーメン屋さんは1年足らずであえなく閉店することになったのです。
【採用に関する失敗ポイント】
- 学生バイトに頼ってしまっていたこと
- すぐに代わりを見つけなかったこと
- 自分1人で頑張ってしまったこと
- スタッフとのコミュニケーションを疎かにしたこと
【経営に関する失敗ポイント】
- 物件がラーメン屋向きではなかった(1人では営業ができない導線)
- 求人に関する費用(広告費)をねん出しなかった
- お客様を雑に扱った(ラーメンがおいしければ大丈夫と思っていた)
【採用成功】田舎でほそぼそと経営している小さな中華料理店の話
- 席数40(カウンターナシ)
- オーナーシェフ+奥さん+パートの3名で営む田舎の中華料理店
- 親しみやすい味と量の多さが喜ばれ、もう20年以上も大繁盛
平日の夜はあまりお客さんが来ませんが、パートさんが出勤するのは平日のランチタイムと土日のみ。人件費も最低限に抑えられています。
もちろんはじめから順調だったわけではありません。タウンワークや求人募集のチラシを配ったりなどして学生バイトを1人採用するのに平均して8万円ほどのコストがかかっていました。田舎の求人募集は通勤手段が限られておりとても難しいのです。
はじめて採用した学生バイトは遅刻や無断欠勤は当たり前。お客さんへの対応も悪く、クレームがくることもしばしば。その後に何名か学生バイトを採用するも、なかなかうまくいきません。そこで学生を採用するのをやめ、パートで働いてくれる主婦に絞って採用活動をすることに。
田舎の中華料理店に来店するお客さんは近所の人も多く、コミュニケーションがとても大切です。そこでいうと、まだ恥じらいが残る学生よりもお客さんと一緒にゲラゲラと笑いながらギョーザ定食を配膳できる主婦さんのほうが合っていたのです。
採用できた主婦スタッフはチラシをみて応募をくれた近所のおばちゃん。はじめは、なかなか仕事を覚えてくれませんでしたが一度慣れてしまうと、なんでもテキパキと進めてくれました。
お客さんたちとも顔なじみのため、雑談も多いですが学生バイトがホールにいたときにはなかった雰囲気が店内にあふれています。土日の宴会などで帰りが遅くなるときにはご家族の料理分まで作って持ち帰らせてくれるなどしておばちゃんには大満足の環境。
近所のおばちゃんはもう10年近くここで働いてくれています。
【採用に関する成功ポイント】
- お店をまわせる人数を把握していたこと
- どんな人を採用するかを考え直したこと
- 採用コストを必要経費ととらえ削らなかったこと
【経営に関する成功ポイント】
- 地域に合った接客ができている
- アイドルタイムの人件費を削れていた
- 採用マッチによる長く働けるスタッフを採用できた
まずはじめに採用のための準備を整えよう
- 人がほしい時間帯
- 時間帯ごとにほしい人数
- 人件費に充てる予算はあるか
- 人数・予算が適正かチェック
- どのような人を採用するか
- 条件はどうするか
- 他社との差別化(アピール)
思い立ったらすぐにでも行動したくなるものですが、ここは慎重に。人が足りていない曜日や時間帯を把握し、本当に必要なのかどうかを今一度検討してみましょう。
それでも採用するとなれば、人材のスペックや価値観などもふまえどのような人をどのように募集をかけるかを検討します。
募集方法の検討
- 人材紹介(派遣・紹介予定派遣)
- 求人広告(TW・バイトル・フロムエーナビ、はたらいく、求人@飲食店.com)
- ハローワーク
- 自店舗での募集
- スタッフからの紹介(友達紹介)→リファレンス
- 採用HPの作成
いろいろな方法が検討できますが、飲食店の場合であれば求人広告が一般的。地域によっても立てるべき戦略が変わるので、まずは求人メディアの担当者に話を聞いてみるのもアリだと思います。
本当にお金がかけられない場合に限り、自店で募集の張り紙をする、スタッフの友達を採用できないか掛け合ってみるなどしてみましょう。
応募~採用までの対応をあらかじめ決めておく
- 書類審査の基準
- 面接時の基準
- 採用後の育成計画
誰かに任せられない場合、オーナーがすべてを行わなければいけません。どのような人なら採用してもいいか、逆に採用してはいけない人はどんな人か、これらを事前に決めておけば、採用の際に迷うことはなくなります。
採用が決まったら、そのように仕事を教え、どこまでの活躍を期待するかなどもあらかじめイメージしておくとGood。行き当たりばったりにならないように計画を立てるのが大切です。
飲食店の採用は他社と比較されていることを忘れない
街を歩けば飲食店がたくさんあるように、人を採用したいライバルはたくさんいます。競合他社も求人募集をしており、応募者は他店とも比較していることを念頭においておきましょう。
【スピードが大事】
忙しくて採用通知が遅れるだけで競合他社に一歩リードされてしまいます。営業をしながら連絡を受けるのは大変かと思いますが、休憩時間に連絡をもらえるようにする、誰かに対応を頼めないか聞いてみるなどの工夫をしてみてください。
【接客同様、丁寧に対応する】
レスポンスをはやくするのはもちろん、適当な返事などで不信感を抱かれないようしましょう。応募者は面接時の雰囲気なども踏まえて総合的に入社の意思決定をします。店内の見えない部分の整理整頓はもちろん、誠実な対応が大切です。